糖尿病
当院では糖尿病専門医、糖尿病療養指導士、看護師、管理栄養士によるチーム医療で、患者さんにあった個別の治療を心がけています。迅速血液検査、動脈硬化検査、頸動脈超音波などの結果をもとに栄養指導をしたり、病状によってその患者さんに最も適した処方をします。また、定期的に開催される糖尿病教室では基本はもちろん最新の情報が得られ、患者体験談、試食会、歩こう会などがあり、糖尿病と楽しく付き合える工夫をしています。
糖尿病とは?
「糖尿病」とは、「インスリン」というホルモンの量が不足したり、働きが悪くなることにより、血液中のブドウ糖(血糖)が多くなりすぎた状態(高血糖値状態)が長く続く病気です。
インスリン分泌と血糖値について
すい臓から分泌される「インスリン」の働きによって、からだの中の血糖値が正常に保たれる仕組みになっています。
インスリンの働き
すい臓にはランゲルハンス島という細胞のあつまりがあります。
インスリンはその中のβ細胞でつくられ分泌されます。
インスリンが必要な分だけ生産され、かつインスリンの働きが正常であるとき、血糖値を十分に下げることができます。
糖尿病患者さんのインスリン不足
糖尿病患者さんは、インスリン分泌が低下していたり、インスリンの働きが悪くなっているために、血糖値を下げることができず、血糖値が高い状態になっています。
糖尿病のタイプと原因
糖尿病の2つのタイプ
糖尿病には、大きく分けて1型と2型の2種類の病型があります。日本では、全糖尿病患者の約95%が「2型糖尿病」といわれるタイプです。
1型と糖尿病
すい臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌できなくなるタイプです。子どもや若い人に多く見られますが、中高年にもみとめられます。
2型糖尿病
インスリンの分泌量が不足したり、働きが悪くなるタイプです。おもに40歳以降にみられますが、若年発症も増加しています。
糖尿病になりやすい人とは?
糖尿病は、遺伝的な体質に、環境的な要因が加わって発症するといわれています。環境的要因として大きくかかわっているのが、食べ過ぎや運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣です。
家族や親戚などの血縁者に糖尿病の人がいる場合は、いない人と較べて、過食や運動不足によって糖尿病を発症する可能性が高くなるので、生活習慣を改善するとともに、定期的に健康診断を受けましょう。
糖尿病の症状
どんな症状があらわれるの?
高血糖状態が続くとさまざまな症状があらわれるとされていますが、糖尿病と診断されたほとんどの人は無症状で、合併症を引き起こす状態まで進行して初めて自覚症状があらわれることも少なくありません。
糖尿病の合併症
糖尿病の合併症は、大きく2つに分かれます。
細い血管にみられる障害(細小血管障害)
血糖値が高い状態が続くと、目や腎臓などの細い血管は障害され、網膜症や腎症が起こります。また、神経障害は早期から発症し、足の壊疽の原因にもなります。
大きな血管にみられる障害(大血管障害)
血糖値が高い状態が続くと動脈硬化が進行し、太くて大きな血管がつまりやすくなります。それが心臓の血管で起こると「狭心症」や「心筋梗塞」、脳の血管で起こると「脳梗塞」、足の血管で起こると「末梢動脈疾患」となります。
糖尿病はどんどん進んでしまいます
糖尿病は生活習慣の乱れやストレス、遺伝が関係して発症します。糖尿病予備軍である境界型でも気をつけないと糖尿病を発症しますし、大血管障害が起こる可能性があります。糖尿病になると、網膜症・腎症・神経障害の3大合併症がこれに加わります。
糖尿病が「こわい病気」といわれるワケ
自覚症状がないからといって血糖値の高い状態を放置しておくと、さまざまな合併症を引き起こし、健康をおびやかす可能性があります。糖尿病が「こわい病気」といわれるのはこのためです。糖尿病にかかっている期間が長ければ長いほど、3大合併症になる危険は高まります。
しかし、早い段階から血糖コントロールを良好に保つように心がければ、合併症を予防したり、進行を遅らせることができます。病気を正しく理解し、治療につとめましょう。
糖尿病の診断方法
糖尿病の判定は、血液検査によって行います。血液検査では、HbA1cまたは血糖値が高いかどうかを調べます。
HbA1c | 血糖値 | |||
空腹時血糖値 当日の朝ごはんを抜いて、空腹の状態で血糖値を測る |
随時血糖値 時間を決めずに血糖値を測る |
75gOGTT2時間値 ブドウ糖75gを飲んで、2時間後の血糖値を測る |
||
糖尿病型 | 6.5%以上 | 126mg/dL以上 | 200mg/dL以上 | mg/dL以上 |
HbA1cと血糖値を同時に測定すれば。1回の検査で糖尿病の診断が可能です。
血糖値コントロール目標
糖尿病の治療は、血糖コントロールを良好に保つことが目標です。
治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。
注1)適切な食事療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2)合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3)低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4)いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。
日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2012-2013 血糖コントロール目標 改訂版P25 文光堂2013
HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)とは?
血糖検査では、検査時点の血糖値しかわかりません。検査前の数日間、当分の少ない食事をしていれば、普段は高い血糖値であってもそのときは下がってしまいます。糖尿病の治療で大切なことは、日々の血糖を上手にコントロールすることであり、その指標として重要なのが「HbA1c」です。血液中のHbA1cという物質の量を調べると、過去1~2ヶ月間の血糖値の平均を知ることができます。
糖尿病の治療
食事療法と運動療法
糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法です。軽い糖尿病であれば、食事療法と運動療法のみで血糖をコントロールすることができます。
薬物療法
食事療法と運動療法を行っても血糖が十分にコントロールできない場合は、経口血糖降下薬やインスリンなどの注射による薬物療法を行います。薬を使用しても、食事療法と運動療法は継続して行うことが大切です。
治療の開始
食事療法
食事療法は、糖尿病治療の基本中の基本です。
自分にとって適切なエネルギー量を摂取する
適切なエネルギー量は、年齢や性別、体格、日々の活動量などによって、一人ひとり異なります。主治医や栄養士に相談して決めましょう。
栄養バランスのとれた献立を心がける
3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)をバランスよくとりましょう。不足しがちなビタミン、ミネラル、食物繊維は意識して食事に取り入れましょう。
1日3回、ほぼ均等量で規則正しく食べる
1日の総エネルギー量をできるだけ均等に3食に分け、毎日決まった時間に食事をとることを心がけましょう。
運動療法
運動療法における注意点
運動中に激しい胸痛、動悸、めまいがしたり、関節や筋肉に強い痛みを感じたときは、運動を中止して主治医に相談しましょう。また、高齢者の場合、運動時の脈拍数を100泊/分以内にとどめるよう注意しましょう。
薬物療法(経口血糖降下薬)
血糖を下げるために用いる飲み薬で、次のような種類があります。
経口血糖降下薬の種類
インスリンの分泌を促進させる薬
薬剤 スルホニル尿素薬(SU薬)速攻型インスリン分泌促進薬
【注意点】
低血糖や体重増加を起こすことがあります。
薬剤 DPP-4阻害薬
【注意点】
低血糖を起こすことがあります(特にSU薬との併用)。
食べ物の消化・吸収を遅らせる薬
薬剤 α‐グルコシダーゼ阻害薬
【注意点】
おなかが張ったり、おならが出やすくなったり、下痢を起こすことがあります。
インスリンの作用を高める薬
薬剤 インスリン抵抗性改善薬
【注意点】
浮腫などの水の貯留を起こす可能性があります。
薬剤 ビグアナイド薬
【注意点】
食欲不振や吐き気・下痢などを起こすことがあります。
尿糖排泄を促進させる薬
薬剤 SGLT‐2阻害薬
【注意点】
体重減少や脱水、尿路感染症を起こす可能性があります。
「低血糖」に気をつけましょう
ときとして、薬の効きすぎなどによって血糖値が必要以上に下がりすぎてしまうことがあります。この状態を「低血糖」といいます。低血糖になると、頭が重い、体がだるい、ふるえ、冷や汗、動悸、けいれんなどの症状があらわれるため、注意が必要です。対処方法は、すぐにブドウ糖や砂糖、糖分の多いジュースなどを口にすることです。低血糖になっても、勝手に薬物治療を中止せず、必ず相談しましょう。
薬物療法(注射薬)
インスリン製剤
インスリン療法は、不足しているインスリンを体外から補い、血糖値を下げる治療です。
インスリン注射は、効果があらわれるまでの時間や持続時間によって、5つの種類に分けられます。注射の回数は1日に2~4回が多いのですが、最近は1日1回で効果が24時間持続するものもあります。どのタイプを使うかは、患者さんの病状などを考えて決められます。
GLP‐1受容体作動薬
新しいタイプの注射薬で、糖尿病によって働きが悪くなったすい臓に作用し、インスリンの分泌を促すことで血糖値を下げる薬です。また、胃の中にある食べ物の排出を遅らせることで、血糖の上昇を抑える作用があり、体重の増加を起こしにくい薬です。
「血糖自己測定」で、こまめに血糖値のチェックを
インスリン注射による薬物療法を行っている患者さんは、血糖の状態によってインスリンや食事の調整が必要なため、きめ細かい血糖値のチェックが不可欠です。それには、通院時の検査だけでは不十分であり、日常生活においても自分で血糖測定を行う必要があります。自ら血糖値を測る習慣をつければ、適切な血糖コントロールに役立つだけでなく、病気に対する理解が深まり、治療への意欲も高まります。
最近はセンサーをつけた腕に測定器をかざすだけで痛みを伴わず血糖を測定できる機器(フリースタイルリブレ)も利用できるようになりました。